
土を継ぐ Echoes from the Soil
- Category
- Art Work
- Year
- 2025
- Development
- Exhibition
2024年、写真家・𠮷田多麻希は Ruinart Japan Award を受賞し、フランス・シャンパーニュ地方のシャンパーニュ・メゾン、ルイナールのアーティスト・イン・レジデンスとして滞在した。このプロジェクトは、シャンパーニュの大地に刻まれた記憶を探ることから始まった。
シャンパーニュ地方の土壌は、幾重にも積み重なる石灰岩の地層を抱え、その奥深くに蓄えられた養分と時間が、新たな生命へと受け継がれていく。𠮷田はこの土地の変化と循環に目を向け、土が単なる物質ではなく、過去の記憶を継承する層であることを実感していった。
「写真は過去を固定するものなのか。それとも、時間の中で意味を変え、未来へと響くものなのか」
化石採掘場での経験とも重ねながら、𠮷田は写真もまた、時間の中で埋もれ、やがて誰かの眼差しによって浮かび上がる存在であると考えた。そして、自ら撮影した写真をシャンパーニュの土に埋めるという行為へと展開する。
朽ちた葉、キノコやナメクジ、土と一体化しつつある地面、道端で偶然見つけた死んだ鳥──それらは「土の部屋」に据えられ、足元の床下に広がる地層とともに、見えない時間の層を抱えながら静かに浮かび上がる。
次第に、𠮷田の眼差しは、より大きな人の手が届かない生と死の営みにも向けられていく。森の奥から響く鳴き声を聞きながらも、その姿は見えないままだったが、滞在の終わりが近づく頃、ついに声の主である鹿が目の前に現れた。その生命の躍動感に満ちた姿と、空を舞う鳥の群れ──𠮷田は、それらを自ら漉いた和紙に封じ込め、「再生の部屋」に宿した。そこでは、土の中から立ち上がる時間の流れの中で、生命が巡り続けることを象徴するように配置される。
「土を継ぐ—Echoes from the Soil」 は、写真を記録という概念から解き放ち、時間の中で変化し続けるものとして捉え直す試みである。𠮷田は「見ること」の純度を高め、写真と空間を通じた対話を探求しながら、土に蓄えられた記憶がどのように未来へと響いていくのかを問いかける。
文:後藤由美
Artist Statement
動物も植物も、いずれは土に還る。
シャンパーニュ地方では、過去に使用された除草剤による土壌汚染が問題となっており、現在では除草剤を使用せず、持続可能な土壌づくりが進められている。また、単一の植物を栽培するのではなく、多様な植物を植えることで生物の多様性を生み出し、豊かな土壌を形成する試みも始まっている。
ルイナールの畑には、さまざまなゴミが混ざっていた。これは1960年代まで、一般的にゴミを畑に捨てることが普通だった過去の名残だ。ルイナールはその過去の遺物を含んだ土壌を活かしながら、新たな生物多様性の土壌づくりを進めている。この一連の流れを「土壌の死と再生」と捉えた。
シャンパーニュ地方の特徴は石灰岩である。石灰岩は太古の生物の遺骸が堆積してできたもので、滞在中、私は化石発掘現場を訪れた。主に貝類が多く発見されていたが、その化石はまるで今埋めたばかりのような姿で掘り起こされた。かつて生きていたものが、長い時を経て今、目の前に現れる──そこにあるはずの時間の流れが、ひどく興味深く感じられた。「かつて、それはそこにいた」それは写真と同じではないかとも思った。
この気づきをヒントに、私はシャンパーニュ地方で撮影した写真(「今」)をその土地に埋め、しばらく後に掘り起こす(「未来」でありながら、その瞬間の「今」でもある)という試みを行った。このプロセスは、シャンパンを瓶詰めし、石灰岩をくり抜いた地下の空間で数年から数十年寝かせる行為にも通じる。また、過去に生きたものを今発掘する化石採掘とも重なり、それ自体が「死から再生させる行為」とも言えるのではないかと考えた。
シャンパーニュ地方の最初の日、目の前にキツネが現れた。道路脇から飛び出したかと思うと、あっという間に藪の中へ消えてしまった。しかし、その美しい尾の動きは目に焼き付いた。美しい生物の姿は、まさに豊かな土地が生み出す生命の象徴でもある。私はどうしても再びキツネを見つけ、撮影したいと思った。そうして、地元の猟師を訪ねたことをきっかけに、ちょうどその時期に森へやってくる赤鹿の存在を知ることとなった。鹿の角は毎年生え変わるため、多くの文化や宗教で「死と再生」の象徴とされてきた。
キツネと赤鹿を探す日々が始まった。
なかなか思うように撮影できない日々が続いた。滞在最終日、時間切れが迫った最後の瞬間、真っ白な濃霧の中、一頭の雄鹿が現れた。まさに奇跡のような出会いだった。
私は土に埋めた「死」を象徴するプリントと対比させ、雄鹿やシャンパーニュで出会った豊かな生物の姿を、過去からその土地が内包してきた様々なシャンパーニュの記憶と共に日本の和紙の中に、漉き込んだ。それはまさしく、その土地が育んできた「生」の姿そのものだと考える。
注) 掘り起こしたプリントを輸入する際に現地でプリントを洗浄し、輸送及び展示に検疫上の対応がされています。
LINK : KYOTOGRAPHIE 2025
